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Channel: 元寇の真実
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史料の信頼性について

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元寇よりも200年ほど昔の1066年、イギリスで「へイスティングズの戦い」と呼ばれる合戦がありました。
この合戦でウィリアム征服王に敗れたイングランドは、対岸のノルマンディー公国によって征服され、その封建体制の支配下に置かれました。
へイスティングズの戦いについて、現代の私たちがその詳細を知ることができるのは、イングランド征服の一部始終を描いたタペストリーがバイユー教会に残されているからです。
イギリス史の本に書かれているへイスティングズの戦いの記述は、ほとんどがこの『バイユー・タぺストリー』から復元されたものです。

https://blogs.yahoo.co.jp/IMG/ybi/1/7f/00/sa341gazelle/folder/526905/img_526905_6727469_0?20060603054125.gif

一方、元寇についてもその詳細を描いた『蒙古襲来絵詞』が残されています。
その描写は精密で、当時の武士たちによる合戦の様子を詳しく知ることができるのみでなく、モンゴル軍の軍装などを研究する上で世界的にも貴重な史料です。
また、絵だけでなく詞書として添えられた文章にも、文永の役と弘安の役での戦闘や、鎌倉での恩賞訴願などの様子が記されています。

https://blogs.yahoo.co.jp/IMG/ybi/1/7f/00/sa341gazelle/folder/526905/img_526905_6727469_1?20060603054125.gif

ところが何故か元寇に関しては、武士の用いた戦術や戦闘の経過について、『蒙古襲来絵詞』の内容があまり活用されていません。
絵巻に登場する武士たちは誰一人として元軍に一騎討ちを挑んだりはしませんが、通説では「やあやあ我こそは・・・」と名乗りを上げて一騎討ちを挑んだことになっています。
絵巻に描かれた元兵たちは皆情け容赦なく狩り立てられ、負傷し、逃げ惑っていますが、通説では日本軍が一方的に劣勢だったことになっています。
これは大変おかしなことです。
何故なら『蒙古襲来絵詞』を作成した竹崎季長は、文永の役と弘安の役で自ら戦闘に参加した武士だからです。

例えば、紀元前四世紀にギリシアからインド西部にまたがる大帝国を築いたアレクサンドロス大王について、アリアノスの『アレクサンドロス東征記』、プルタルコスの『英雄伝』、ディオドロスの『歴史集成』、クルティウスの『アレクサンドロス伝』、ユスティヌスの『フィリッポスの歴史』の5つの伝記が現存しています。
その中で、戦闘の記述に関して世界中の歴史家から最も信頼性が高いと思われているのは、アリアノスの『アレクサンドロス東征記』です。
それはアリアノスの大王伝が、アレクサンドロスの側近として自ら戦闘に参加したプトレマイオスの記述を原典としているからです。
戦局の推移やそこで用いられた戦法について正確に記述するためには、軍事に関する高度な専門知識が必要です。
軍人として戦闘に参加した人物の記述が、最も信頼性が高いと考えるのは当然のことです。

世の中には、『蒙古襲来絵詞』は竹崎季長が恩賞を得るために描かせた絵巻だと、勘違いしている人が大勢います。
だから「武士たちが優勢に描かれているのは当然」だというのです。
どうやら、絵巻では明らかに日本軍優勢な点が気に入らない人たちによって、嘘が広められているようです。
竹崎季長が恩賞として海東郷の地頭職を与えられたのは1276年で、『蒙古襲来絵詞』の作成はそれよりも後の1293年頃です。

絵巻の作成された1293年は、霜月騒動で討たれた安達泰盛とその一族の名誉回復が始まった年でした。
文永の役の翌年、恩賞訴願のため鎌倉に赴いた竹崎季長は、恩賞奉行だった安達泰盛によって海東郷の地頭に任じられたのみならず、馬と具足を賜るという破格の好意を受けました。
『蒙古襲来絵詞』は恩義ある安達泰盛とその一族への感謝の気持ちを込めて作成されたのです。

https://blogs.yahoo.co.jp/IMG/ybi/1/7f/00/sa341gazelle/folder/526905/img_526905_6727469_2?20060603054125.gif

元寇当時、鎌倉で恩賞奉行として御家人たちの戦功を査定する立場にあった安達泰盛に対して、戦局を自分たちの優勢に歪曲した絵巻を作成することが、追悼になるはずがありません。
『蒙古襲来絵詞』について、「武士たちが優勢に描かれているのは当然」などということは言えないのです。

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